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普遍的多様性 - 書評 - 『この古典が仕事に効く! 』成毛 眞

火曜日, 1月 28, 2014

この古典が仕事に効く! (青春新書インテリジェンス)
  • 作者:成毛 眞
  • 出版社:青春出版社
  • 発売日: 2013-07-02

本の鉄人、成毛眞氏による古典の紹介本。引っ掛かったエピソードを二つほど上げてみよう。
まず、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』では「超人」思想が出てきた背景(当時のキリスト教の衰退によるニヒリズム)と永劫回帰という仏教にも似た概念(運命とは永遠の反復にすぎない)について簡潔に触れている。超人というのも大それたものではなく、
人生のいかなる瞬間でも、限りなく充実して生きようとすること。
などと前向きに生きようという普遍的メッセージであり、今でも乱発されている自己啓発系の本というのはこういう古典を今風の言語に直して販売していると思うので本来はこういうのを一冊持っておくだけでいいわけだ。そして、当時のニーチェも仏教などの思想を輸入して生み出したのかもしれないという気がしなくもない。

もう一つは、モンテーニュの『エセー』の「哲学者がなんと言おうと、われわれの最終目的は快楽なのだ。」という肉体的快楽を軽んじることを愚かだというのも新鮮で面白かった。

本書に出てくる偉人たちの言っていることは一貫性がない。つまり真理はなくて多様性だけがある。だからこそこれだけ人口が増えた現代でも人々は古典に救いを見出すことが出来るのかもしれないなと本書を読んで思った次第だ。
古典の名著特集だけど、著者名ぐらいはなんとなく聞いたことはあっても正直な話この本を読んで知った本や著者達は多い。(ラ・ロシュフコーの『箴言集』とか著者名も著作名も両方知らなかった。。)

それはさておき、本書の効能は要点を覚えておくことで「マックス・ウェーバーについてどう思うか?あぁ、プロテスタンティズムの禁欲精神が資本主義を形成したという仮説とか面白いよね。でも、ウェーバーもそうだったように世の中の現象は単一ではなく複雑なのは自明であって、多角的な視点で捉えるという基本原則が今のマスメディアのジャーナリズムに欠けている気がするね。」などの知的会話が出来るようになるというところかもしれない。

半分冗談のようだけど、マジメな話そういうふうに「本の知識は実利になる」と、知識というものを捉え直した方が良い人達、特にリーダーの立場の人は自分の言葉というものに頼りすぎて本が持つ歴史の引用の重要性を忘れているのではないだろうか。外国向けにメッセージを発する人などは特にだ。

そうは言っても、さすがに古典の名著を2ページ見開きで説明するのは物足りないのも事実。ただ短いからこそ空き時間にパッと読める手軽さがある。著者の本の紹介本は数多く出版されているけど、読み物としては読んでいる時点で笑える『面白い本』の方がオススメだ。
続編である『もっと面白い本』が数日前に刊行されたらしい。

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